PADIとBSACとはここが違う。オープンウォーターダイバーテキストを比較してみた
- どこのダイビング指導団体でも、ライセンス講習の内容は同じなのかな
- どこのダイビング指導団体でも、学科講習の内容は同じなのかな
ダイビングを始めようと思ったら、ダイビングライセンスと呼ばれるCカードが必要です。ダイビングライセンスと呼ばれていますが、Cカードは様々なダイビング指導団体が発行した認定証です。ダイビングライセンス講習の内容は少しずつ異なります。
ダイビングを始めるときに悩むのは、どこのダイビング指導団体のダイビングライセンスを取得するのが一番良いかということです。選ぶことに時間がかかり、ダイビングを始める時期を逃してしまってはもったいないです。
でも、ダイビング講習内容に違いがあるなら、自分に合ったところを選びたいですよね。
私は、伊豆のダイビングポイントを中心に約10年間で550本以上のダイビングを経験してきました。450本以上のファンダイビングを経験の後、NAUIダイブマスターを取得した現役ダイバーです。
この記事では、全世界で2800万人を超えるダイバーを認定している世界最大のダイビング教育機関PADIとイギリスで1953年に設立された世界最古のダイビング養成機関BSACとを比較します。
具体的には、初級ライセンスのオープン・ウォーター・ダイバー(BSACではオーシャンダイバー)を比較します。オープン・ウォーター・ダイバーで共通しているのは、受けたトレーニングと経験の範囲内のコンディションで、水深は18mまでの範囲でダイビングできることです。違いは、監督者を置くことを推奨するかです。(下記)
- PADIは、監督者なしでダイビングすることができます。
- BSACは、ダイブディレクター以上の資格のあるダイバーの管理の下でダイビングすることが望ましいでしょう。
比較は学科講習のテキストの内容を基にしています。学科講習よりもプール講習などで学ぶ比率が高い可能性もあります。また、ステップアップしたコースで学ぶこともあります。その点はお含みおきくださいませ。
PADIとBSACとのダイビング指導団体の詳細は、下記の記事にまとめています。
【どこのCカードを取得する?おすすめ4大スキューバ・ダイビング指導団体】
この記事を読めば、オープン・ウォーター・ダイバーのダイビング講習で、PADIとBSACとで、学ぶこと、学ばないことの違いや特徴がわかります。違いや特徴を知ることで自分に合ったダイビング指導団体が選べ、楽しくダイビングが始められます。
比較した結果、PADIとBSACの違いと特徴は次の3つです。
ダイビング教育団体PADIとダイビング指導団体NAUIとでテキストを比較した記事はこちら
ライセンス取得コースも掲載中
PADIとBSACの学習内容の違い
学習順序の違い
- PADIは、様々な項目を並行して知識を積み上げていく
- BSACは、基本を一通り学んだ後、さらに詳しい知識を学ぶ
オープン・ウォーター・ダイバー 取得コースの構成は、学科講習と限定水域ダイブとオープンウォーターダイブの3部構成で同じでした。
主に学科講習で学ぶ内容を細かく比較していきます。
PADIのテキスト・知識の学習は、全体が5つの章で構成されています。
- 物理や環境などの理論
- ダイビング器材
- ダイビング技術
- 限定水域ダイブの予習(達成基準と具体的手順)
ひとつの章に、上記の学習項目が含まれています。ひとつの章で完結せず、複数の学習項目を並行して学び、章が進むにつれて知識の量と幅が増えていくイメージです。また、知識の学習の5章は限定水域ダイブの5回に内容がリンクしています。
BSACのテキストは、chapter(チャプター)1〜6とappendix(参考)1〜6で構成されています。ダイビングの学習は、チャプター5で完結していてチャプター6はステップアップコースの説明です。
- 水中で起こる見え方や音の科学的変化
- ダイビングの基本技術
- 窒素酔い、減圧症、水深による空気消費の変化など地気を深める
- ダイビング器材の詳細
- 波や流れなど環境への対応
ひとつのチャプターで学習内容は完結し、上記の順番で学びます。
また、ダイブテーブルの説明は本文中にはなく、参考1で説明されています。
PADIは各分野を複数の章に分けて学びつつ最後に全て学習が終わるのに対し、BSACはチャプター1と2で全体像を学習した後、より注意が必要なこと詳細なことを学んでいきます。
名称の違い
PADI | BSAC |
サイナス | 副鼻腔 |
ダイブプラナー | ダイブテーブル |
名称の違いは2点だけでした。
サイナスを検索サイトで調べたら、心臓の関連のことも表示されてきます。
でもダイビングにおいては副鼻腔を指す言葉として使われています。
数値の違い
PADI | BSAC | |
限定水域ダイブ(プール) | 5回 | 4回 |
浮上速度 | 1分間に18m | 1分間に15m |
ハンドシグナルの数 | 25個(数字はなし) | 22個と数字10個 |
水が熱を伝える速さ | 空気の約20倍以上 | 空気の25倍 |
圧平衡の頻度 | 1mごとに行う | 耳に違和感を感じたら行う |
緊急スイミングアセントの水深 | 6〜9m | 12mより浅いところ |
安全停止 | 水深5mで3分間以上 | 水深3〜6mで1〜3分以内 |
ダイブプラナー | 水深10.5mから42mまで | 水深3mから39mまで |
飛行機搭乗までの時間 | 最低18時間以上空ける | 24時間以上空ける |
浮上速度は互いにより遅い速度で浮上することを推奨しています。そのため浮上速度に大差はないと考えられます。
緊急スイミングアセントは、空気タンクの空気が切れたときの緊急浮上方法です。肺の中にある空気だけで水面までたどり着く緊急浮上の浮上方法で、BSACの方が使える限度の水深を深く設定しています。
安全停止の方法は、PADIが一定の値を示しているのに対しBSACでは幅を持たせているのが特徴です。水深は浅い所の方がより安全なのかもしれませんが、3分間以上とするPADIと3分間以下とするBSACの違いは大きいです。
ダイブプラナー(ダイブテーブル)で、PADIが水深10.5mからなのは「10m以浅は全て10mを適用」のルールがあるからです。浅い水深を深い水深の値に当てはめるのでより安全思考になっています。
学ぶこと、学ばないこと
PADIで学ばない内容
- 絶対圧のこと
- 気体の体積変化の法則である「ボイルの法則」の名称
- バディとはぐれてしまったときの具体的対処法
- ブリーフィングの内容
- タンクの空気の75%を使い、残り25%は残しておくこと
- 空気の分圧
- 空気のトリミング
絶対圧は水中で身体にかかる総圧力のことです。水面では大気圧1気圧です。水深が深くなるにつれて水圧が身体にかかります。なので、絶対圧(身体にかかる総圧力)は大気圧と水圧との和になります。
絶対圧に対し水圧だけの圧力をゲージ圧と呼びます。絶対圧の理解が必要なになるのはもう少しステップアップしたコースに入ったときです。
バディとはぐれてしまったときの対処法が下記のように具体的に示されています。
- しっかりと360度ゆっくり探す
- 水中で探す時間は1分以内に切り上げる
- 浮上して水面から探す(排気の泡など)
空気の分圧の考え方は下記の内容です。
- 1気圧の空気は、窒素が80%で0.8気圧を、酸素が20%で0.2気圧を作り出している
- 水深10mで2気圧になると、窒素が1.6気圧を、酸素が0.5気圧を作り出す
密度が濃くなった窒素を体内に吸収することで、ダイバーに様々な影響を与えます。
ブリーフィングの説明があるのは特徴的です。
BSACで学ばない内容
BSACで学ばないダイビングの知識に関すること
- リバースブロック
- 中性浮力以外のマイナス浮力とプラス浮力
- デッドエアスペース(死腔)
- 全身の温度喪失に対し、頭部から失われる熱が占める割合
- ヒートロス、ハイポサーミア(低体温症)
- サーモクライン
- 水底の構成の名称
- 淡水と海水でのダイビングの違い
- アップウェリングという潮流
- ダイビングコンディションの評価
- 妊娠中のダイビングの危険性
- 酸素の特徴と危険性
- エンリッジド・エア
- 残留窒素という概念
- 反復ダイビング
- 緊急減圧
- アルティチュードダイビング(高所潜水)
細かな点もありますが、17項目ありました。中でも知っておいた方が良い5つ項目を取り上げます。
- リバースブロック
- 全身の体温喪失に対し、頭部から失われる熱が占める割合
- ダイビングコンディションの評価
- 残留窒素の概念
- 緊急減圧
リバースブロックは浮上するときに起こる可能性がある圧障害です。体内の空間にある空気が浮上に伴い膨張するが、外とつながる管が閉じてしまい圧平衡ができないときに起こります。副鼻腔は中耳のように圧平衡する手段がないため、風邪薬や鼻炎薬など鬱血を抑える薬を服用してスクイズ対策は行わないようにしましょう。
頭部から失われる熱は全体の体温喪失の75%を占めると言われています。21℃以下の水温の場合はフードを着用し保温することが絶対に必要です。体温喪失がひどいとヒートロス、ハイポサーミアといった重大なトラブルに発展しかねません。
ダイビングコンディションの評価は、最終的に自分で行うことが大切です。
その上で、安全にダイビングできるかどうかを判断します。これはあなた自身の判断です。自分の安全は最終的には自分自身が責任を持つものであり、ダイビングするかどうかの最終的な決定を下せるのは自分自身しかいないということを忘れてはいけません。
「その上で」というのは、担当インストラクターのダイビングポイントや海況の説明を聞いた上でということです。最終的な判断の責任を明確にしておくことは大切なことです。
ダイビング計画とズレがあり減圧不要限界を超えたときに行うのが、緊急減圧です。
ファンダイビングは常に減圧不要ダイビングとしてダイビング計画を立てます。ただ、何らかの理由で浮上が遅れたりした場合、減圧不要限界を超えてしまうことがあります。ダイブプランナーにある減圧不要限界の時間を超えてしまった場合は、緊急減圧停止をして体内から窒素を排出するための行動をしなければなりません。
いつも行う安全停止と緊急減圧停止とは異なり、水深5mで8分間行います。減圧症の予防の安全停止とは異なり、緊急減圧停止は必須です。ダイビング計画を立てるときは、減圧不要限界より余裕を持った計画にすることが大切です。
BSACで学ばないダイビングの技術に関すること
- 器材バディチェックの手順
- 水中マスクなし呼吸を1分間
- 水中でBCDのパワーインフレーターの中圧ホースを外す
- エア切れの体験と練習
- 低視界ダイビングの対応方法
- バディ・ブリーシング
- フリーフローし続けるセカンドステージからの呼吸方法
- 足をつったときの対処方法
- 中性浮力を知るためのフィンピボット
- 水中マスクなし水中移動15m以上
- コンパスナビゲーションの方法
- 水面、水中でのウェイトシステム及びスクーバユニットの脱着方法
- 水面でのトラブル管理
- パニックを起こしているダイバーの特徴
- 他のダイバーのアシストをする基本的なステップ
- 水中でのトラブル管理
- 疲労したダイバーの曳航方法
- 初歩のレスキュー手順
学科講習のテキストで見比べると、18項目ありました。プール講習や海洋講習で学ぶこと、ステップアップしたダイビングコースの講習で学ぶことも考えられます。
18項目というのはテキスト内容だけで比較した結果です。
特に大切なダイビング技術と感じたのは水中マスクに関する項目です。
- 水中マスクなし呼吸を1分間
- 水中マスクなし水中移動15m以上
BSACに手順の説明はなく写真だけあった、水中マスク脱着と合わせると3項目です。ダイビング中に感じるストレスの代表格は、水中マスクに関係することです。
- 視界が急に奪われ不安になる
- 呼吸時に鼻から水を飲んでしまう
- 急に花が水に触れることで、反射的に呼吸ができなくなる
これが水中マスクが外れてしまったり、内側に水が入ってきたときに起きます。克服するには繰り返し練習して、呼吸もできるし大丈夫なんだと理解することが大切です。落ち着いて水中マスクを付け直しマスククリアーをすれば元通りです。
BSACとNAUIで初級ライセンスのテキスト比較をした記事はこちら
テキストの特徴
PADIのテキストの特徴
- 講習回数がテキスト上に明確になっている
- 限定水域ダイブとオープンウォーターダイブの講習内容が明確になっている
- 限定水域ダイブの予習の項目が充実している
学科講習「知識の開発」が5章、それに対応した内容で「限定水域ダイブ」を5ダイブ行います。さらにオープンウォーターダイブを4回行うと最低限の講習の回数がテキストに明記されています。
限定水域ダイブとオープンウォーターダイブとのスキルの達成条件がダイビング講習受講者に明確に示されています。
加えて、PADIは文書化されたダイビング手順が充実している印象です。明示されているスキル達成条件に必要な個々の説明が文書で説明されています。
また、ダイビング器材の取り扱いや個別のダイビングスキルの説明に限らず、ダイビング全体を順を追って文書で説明されています。
BSACのテキストの特徴
- 認定基準が明示されている
- 安全な水域での実習と海洋実習の講習内容は明示されていない
- 具体的な写真とイラストで資格的に理解しやすい
オーシャンダイバーコースの認定基準は、次の3つが明示されています。
- 学科テストは50問 正解率75%
- プールもしくは限定された安全な水域での実習を4セクション
- 海洋実習での4回の潜水
反面、安全な水域での実習と海洋実習での合計8回講習内容は明らかではないです。
BSACのテキストは、具体的な写真とイラストを用いた説明が随所にあり、視覚的に理解がしやすい作りになっています。
ライセンス取得コースも掲載中
まとめ:PADIは複数項目を並行し、BSACは一巡後に追加する
PADIとBSACの学習順序の違いをまとめると次の通りです。
- PADIは、様々な項目を並行して知識を積み上げていく
- BSACは、基本を一通り学んだ後、さらに詳しい知識を学ぶ
学ぶ名称の違いは次の2点だけでした。
PADI | BSAC |
サイナス | 副鼻腔 |
ダイブプラナー | ダイブテーブル |
学ぶ数字が異なるのは、9点見つかりました。
PADI | BSAC | |
限定水域ダイブ(プール) | 5回 | 4回 |
浮上速度 | 1分間に18m | 1分間に15m |
ハンドシグナルの数 | 25個(数字はなし) | 22個と数字10個 |
水が熱を伝える速さ | 空気の約20倍以上 | 空気の25倍 |
圧平衡の頻度 | 1mごとに行う | 耳に違和感を感じたら行う |
緊急スイミングアセントの水深 | 6〜9m | 12mより浅いところ |
安全停止 | 水深5mで3分間以上 | 水深3〜6mで1〜3分以内 |
ダイブプラナー | 水深10.5mから42mまで | 水深3mから39mまで |
飛行機搭乗までの時間 | 最低18時間以上空ける | 24時間以上空ける |
BSACで学び【PADIで学ばないこと】は次の内容です。
- 絶対圧のこと
- 気体の体積変化の法則である「ボイルの法則」の名称
- バディとはぐれてしまったときの具体的対処法
- ブリーフィングの内容
- タンクの空気の75%を使い、残り25%は残しておくこと
- 空気の分圧
- 空気のトリミング
PADIで学び【BSACで学ばないこと】は、たくさんの項目がありました。ダイビングの知識と技術に分けて内容をまとめました。
まずはダイビングの知識です。
- リバースブロック
- 中性浮力以外のマイナス浮力とプラス浮力
- デッドエアスペース(死腔)
- 全身の温度喪失に対し、頭部から失われる熱が占める割合
- ヒートロス、ハイポサーミア(低体温症)
- サーモクライン
- 水底の構成の名称
- 淡水と海水でのダイビングの違い
- アップウェリングという潮流
- ダイビングコンディションの評価
- 妊娠中のダイビングの危険性
- 酸素の特徴と危険性
- エンリッジド・エア
- 残留窒素という概念
- 反復ダイビング
- 緊急減圧
- アルティチュードダイビング(高所潜水)
次にダイビングの技術です。
- 器材バディチェックの手順
- 水中マスクなし呼吸を1分間
- 水中でBCDのパワーインフレーターの中圧ホースを外す
- エア切れの体験と練習
- 低視界ダイビングの対応方法
- バディ・ブリーシング
- フリーフローし続けるセカンドステージからの呼吸方法
- 足をつったときの対処方法
- 中性浮力を知るためのフィンピボット
- 水中マスクなし水中移動15m以上
- コンパスナビゲーションの方法
- 水面、水中でのウェイトシステム及びスクーバユニットの脱着方法
- 水面でのトラブル管理
- パニックを起こしているダイバーの特徴
- 他のダイバーのアシストをする基本的なステップ
- 水中でのトラブル管理
- 疲労したダイバーの曳航方法
- 初歩のレスキュー手順
PADIが細かく文書化されているのに対し、BSACはダイビング技術や手順を文章で説明が少なかったです。ただ、講習する側の手順は決まっていて、プール講習などで学習する可能性もあります。
PADIテキストで感じた特徴をまとめました。
- 講習回数がテキスト上に明確になっている
- 限定水域ダイブとオープンウォーターダイブの講習内容が明確になっている
- 限定水域ダイブの予習の項目が充実している
BSACテキストで感じた特徴をまとめた内容です。
- 認定基準が明示されている
- 安全な水域での実習と海洋実習の講習内容は明示されていない
- 具体的な写真とイラストで資格的に理解しやすい
以上、ダイビング指導団体のPADIとBSACの比較でした。
PADIの方がより具体的な解説でテキスト内の情報量も豊富だった印象です。
ただ、BSACは、独自の教育システムを採用しており、他の認定機関とは異なる技術や手順を用いているとも言われます。ライセンス名も他のダイビング指導団体とは違う独自の名前です。BSACのダイビング講習を受講したことがなく、プールや海洋での講習内容は不明確です。
この記事が自分に合ったダイビング指導団体を選ぶことのお役に立てば幸いです。
では、また。どこかの海で。